
全日本選手権、全日本大学選手権、世界選手権など通常のボートレースは、直線の2000 メートルで行われます。COXはただ真っ直ぐに艇を進めさえすればよいのです。
しかし、早慶レガッタが行われる隅田川のコースは蛇行が激しいコースで、COXの舵捌き次第で レース展開が変わってくると言われています。またこの時期には春特有の強風が吹き、風にも 負けない舵捌きが必要となってきます。
ところで、150年の歴史を誇る英国のオックスフォード大学・ケンブリッジ大学のボートレース (HP)では、 隅田川よりもさらに蛇行の厳しいテムズ川のコースが舞台となっています。
隅田川でこそCOXに求められる能力とは具体的に何でしょうか。第72、73回大会で慶應義塾
対校エイトのCOXを務めた門脇啓太は、隅田川の難しさは「コース取りにある」と言っています。「隅田川攻略のポイントはコース取りだと思います。公式の直線レースと違ってコース にいくつかのカーブがあり、ここで大きく舵を切らなければならない。 このカーブでの舵取りは、時に勝敗を分ける重要なポイントとなり 早稲田クルーとの駆け引きが絡んでくる。 自分は、お互い競り合った展開ではカーブで自艇を相手コースに少しかぶせることで 主導権を握ろうと考えていた。」
自艇を相手コースにかぶせる、とはどういうことでしょうか。
ボートでは相手より前に出て漕ぐことが有利だと言われています。相手を見ながら漕げ、 相手に波をかぶせることができるからです。相手のレーンにできるだけ近づけることは、 相手に波をかぶせ、バランスを崩させる効果があるのです。
しかし、極端なラダーワークは自艇のバランスを崩すことになり、漕行距離も余計に プラスされます。また、 川のレースとは言え、 レーンがないのではく、「墨田側レーン」「台東側レーン」とレーンが決まっています。相手コースに 侵入することは反則であり「失格」 となります。このため、COXは、高度なラダーワークの技術と、失格にならないギリギリの ところを見極める力が必要になってきます。
しかし、一方で別の見方もあります。
第71回、72回大会で早稲田対校エイトのCOXを務めた廣田正義は、「COXの使命は最短
距離でゴールをすることだ」と言っています。「結局は『強い』ほうが勝つ。だから局面ごとに意識していたことはない。常に漕手は 100%の出力で、制御されたドライブを出し、COXは艇の邪魔をしないよう、 そして相手に波をかぶせるとか変なことは考えず、COXの本来業務たる最短距離で 艇をゴールに運ぶことが重要だと思う。」
72回大会では、レース後審判団から、「レーンをはみ出ない過去最高の舵捌きだった」と評された 廣田COX率いる早稲田クルーが勝利し、73回大会では、門脇COX率いる慶應義塾クルー の波に終始苦しめられた早稲田が ズルズルとリズムを崩してゆき、慶應義塾が早稲田に快勝しました。
さて、74回大会、早稲田、慶應義塾のCOXはそれぞれどういった戦略を持って隅田川に乗り込 んで来るのでしょうか。

高度な技術・冷静な判断力・クルーからの信頼。この3つの他に求められるものは あるのでしょうか。
それはきっとCOXそれぞれの個人が持つ「経験」や「感性」といったものになるでしょう。
若手COXは、第2エイトなどで隅田川の経験を積んで、対校エイトの舞台に立つことになります。慶應義塾COXの津田元夫(新4年)、西山雅博(新3年)、早稲田COXの樋口潤 (新3年)、鳩貝滋(新3年)はそれぞれ、第2エイトなどで隅田川の経験を積んできました。 (樋口のみ対校エイトの経験あり。)
また、COX個人のバックグラウンドに注目するのも面白いことです。
津田元夫は法律学科で憲法を学んでおり、「そこで得られる 論理的な思考力は艇の上でも役に立っている」と言います。西山雅博は政治学を、一方、早稲田の樋口潤 は教育学部で数学を、鳩貝滋は法学部で法律を専攻しています。
COXの頭脳から導き出される感性そのものが、勝敗に影響を及ぼしているのかもしれません。
(特集第3回 終り)









